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次世代の大容量光通信を支えるマルチコアファイバとは?

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はじめに

近年、動画配信サービスの普及、クラウドコンピューティングの拡大、そして生成AIによる大規模データ処理の急増などにより、世界の通信トラフィックは年々増加を続けています。従来の単一コア光ファイバでは、さらなる大容量化が課題となる中、複数のコアを1本のファイバに集積した「マルチコアファイバ」が次世代通信技術として注目されています。
本記事では、マルチコアファイバの基本構造から、従来のファイバとの違い、メリット、そして今後の展望についてわかりやすくご紹介します。

マルチコアファイバとは

・マルチコアファイバの定義
通常の光ファイバは、光が伝わる「コア」と呼ばれる中心部分が1本だけ存在する「シングルコアファイバ」が主流です。これに対してマルチコアファイバ(MCF: Multi-Core Fiber)は、1本の光ファイバ内に複数のコアを配置した構造を持つ光ファイバです。コア数は2コアから数十コアまでさまざまな構成が研究されており、代表例として4コア、7コア、19コアなどがあります。
それぞれのコアが独立した伝送路として機能するため、1本のファイバで複数本分の情報を同時に送ることが可能になります。

・マルチコアファイバと従来のファイバとの違い
従来のシングルコアファイバは、1本の光ファイバの中に光を伝送するための「コア」が1つしかなく、1系統の信号しか伝送できません。これに対してマルチコアファイバは、同じ外径のファイバ内に複数のコアを配置することで、それぞれのコアが独立した伝送路として機能し、1本のファイバで複数系統の信号を同時に伝送することができます。
このため、ファイバ本数を増やすことなく伝送容量を拡大できる点が、マルチコアファイバの大きな特徴です。

なぜマルチコアファイバが必要なのか

・伝送容量の限界(シャノン限界)
シングルコアファイバでは、波長多重(WDM)技術や変調方式の高度化によって伝送容量の拡大が図られてきました。しかし、信号対雑音比(SNR)などの制約により、単一コアあたりの伝送容量は理論的な限界に近づきつつあるとされています。


・空間分割多重(SDM)という発想
そこで注目されているのが、空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)です。SDMは、光ファイバ内の空間的な自由度を活用して複数の信号を同時に伝送する技術であり、従来の波長多重に続く次世代の大容量化技術として期待されています。マルチコアファイバ(MCF)は、複数のコアを1本のファイバ内に配置することで、伝送容量の拡大を実現する光ファイバ技術であり、SDMを実現する代表的な手段の一つです。

特徴とメリット

・伝送容量の大幅な向上
実験レベルでは、1本のマルチコアファイバを用いてペタビット級(Pb/s級)の伝送に成功した事例も報告されています。

・ファイバ敷設スペースの削減
複数本のシングルコアファイバを束ねる代わりに、1本のマルチコアファイバで同等以上の容量を実現できるため、ケーブルの細径化や、管路・データセンター内の省スペース化につながります。

・コスト削減への期待
将来的には、同じ伝送容量をより少ないファイバ本数で実現できるため、敷設工事や設備管理にかかるコストの削減が期待されています。

課題と技術的ハードル

一方で、マルチコアファイバの実用化にはいくつかの課題も残されています。

最も重要な技術課題の一つが「クロストーク」です。これは、隣接するコアを伝わる光信号の一部がしみ出し、互いに干渉し合う現象で、信号品質の劣化や伝送距離・データレートの制限につながります。特に長距離の海底ケーブルでは、クロストークの影響が蓄積しやすく、伝送品質への影響が大きくなります。クロストークを抑えるには、コア間の距離を広げる、コア周囲の屈折率を調整して光の漏れを抑えるなどの設計上の工夫が有効ですが、コア間隔を広げるとファイバが太くなり、コア数を増やすメリットが薄れてしまいます。そのため「クロストークの抑制」と「ファイバの細径化・コア高密度化」はトレードオフの関係にあり、MCF設計における中心的な課題となっています。
また、複数コアに対応した接続部品(コネクタ、融着接続技術)や、各コアの信号を一括して増幅できる光増幅器の開発も必要です。
さらに、既存のシングルコアファイバ網との互換性や、新たな製造・接続インフラの整備も普及に向けた課題として挙げられます。
これらの課題に対し、世界中の研究機関や通信機器メーカーが活発に研究開発を進めており、海底ケーブルやデータセンター間の超大容量幹線などへの応用が期待されています。

主な応用分野

マルチコアファイバの大容量化という特長は、特に以下のような分野での活用が期待されています。

・海底ケーブル・国際基幹通信網
大陸間を結ぶ海底ケーブルは、敷設コストが非常に高く、ケーブル径にも制約があります。1本のファイバで大容量化できるマルチコアファイバは、限られたスペースの中で伝送容量を飛躍的に高める手段として、国際幹線への応用が研究されています。

・データセンター間接続(DCI)
クラウドサービスの拡大に伴い、データセンター間を結ぶネットワークの大容量化が急務となっています。マルチコアファイバを用いることで、ラック間や拠点間の配線を簡素化しながら、必要な伝送容量を確保できます。

・モバイルネットワーク(5G/6G)
基地局間を結ぶバックホール回線においても、トラフィックの増加に対応するための大容量化が求められています。マルチコアファイバは、将来の6G時代を見据えた高速・大容量バックホールの選択肢として注目されています。

・衛星通信・高性能計算(HPC)
衛星から地上局への大容量データ伝送や、スーパーコンピュータ間の高速データ転送など、限られたスペースで超大容量通信が必要な分野でも応用が検討されています。

実用化に向けた取り組み事例

  • Googleは2023年、TPU(Taiwan-Philippines-U.S.)海底ケーブルにおいて、マルチコアファイバ技術を採用する計画を発表しました。
  • NTTは2024年、伝送容量を従来の4倍にする4コアMCFの建設・保守技術を発表し、データセンター間接続や海底通信での実用化検証を進めています。また、2026年には、4コアMCFを用いた192コア海底ケーブルシステムと、接続箱・局内接続装置を含む商用導入向け技術一式を発表し、2029年頃の実用化を目指しています。MCFは研究段階から実証・商用化の段階へ移行しつつあり、次世代大容量通信網を支える技術として注目されています。

まとめ

マルチコアファイバは、増え続ける通信需要に応えるための「空間分割多重」を実現する有力な技術として、世界中で研究開発が進められています。実用化にはまだいくつかの課題が残されていますが、AIやクラウドサービスのさらなる普及に伴い、通信インフラにはこれまで以上の大容量化が求められると考えられます。マルチコアファイバは、その課題を解決する有力な技術の一つとして期待されており、実証試験や商用導入の進展とともに、次世代光通信ネットワークの実現に大きく貢献すると考えられます。

参考資料


[1] 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) 「世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功」 (2022年5月19日)
https://www.nict.go.jp/press/2022/05/19-1.html

[2] NTT株式会社 「1本の光ファイバーで4倍の容量を実現する4コア光ファイバーの建設・運用・保守技術を開発」 (2024年11月15日)
https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/11/15/241115a.html

[3] NTT株式会社 「マルチコア光ファイバーを用いた世界最高容量の192コア海底ケーブルシステムを開発」 (2026年3月13日)
https://group.ntt/jp/newsrelease/2026/03/13/260313a.html

[4] Submarine Networks「TPU (Taiwan-Philippines-U.S.) Cable System」
https://www.submarinenetworks.com/en/systems/trans-pacific/tpu
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