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中空コア光ファイバ(HCF)に対応する光子計数型OTDR

導入背景
次世代光通信を支える中空コア光ファイバ(HCF)の研究開発が進む中、従来手法による分布特性評価が困難という課題がありました。導入前の課題
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極めて低い後方散乱レベル
HCFでは後方散乱レベル自体が極めて低く、ガラス構造に起因する後方散乱は標準的なSMFと比較して約45dB低いことが報告されています。さらに、コア内に空気が充填されている場合でも、空気分子によるレイリー後方散乱信号はSMF比で約27~30dB低いレベルに留まり、従来型OTDRの感度およびダイナミックレンジでは実用的な測定が困難です。
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接続点での強い端面反射
SMFとHCFの接続部で生じるフレネル反射(約−14dB)は、空気分子による後方散乱信号(SMF比約 −30dB 程度)と比較して十分に大きく、この初期反射ピークによりOTDRの受光系が飽和、もしくはデッドゾーンが拡大することで、測定対象となる微弱な後方散乱信号が検出困難となります。
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高い結合損失
SMFとHCF間のモードフィールド径(MFD)の不整合に起因する結合損失は、後方散乱信号に対して送受信の両方向で影響するため、実効的には数dB規模の減衰として作用します。その結果、SMF比で約27dB低い微弱な後方散乱信号がさらに減衰し、測定装置のノイズ限界以下に押し下げられる要因となります。
導入内容
中空コア光ファイバ(HCF)におけるOTDR測定では、従来型(アナログ検出方式)のOTDRでは対応が困難な特有の課題が存在します。そのため、光子計数技術(Photon-counting)を用いたOTDR(LOR-200)を採用しています。
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光子計数型OTDR(LOR-200)
選定理由
- LOR-200は単一光子レベルでの検出が可能であり、このような極めて微弱な後方散乱信号の検出を可能とします
- LOR-200は高い時間分解能および検出ゲーティング制御を備えており、強い初期反射の影響を抑えた測定が可能です。
- 光子計数型 OTDR では、信号強度そのものではなく光子事象の統計的検出に基づく測定を行うため、追加損失が存在する条件下でも、十分な積算時間を確保することで測定が可能となります。
光子計数技術(Photon-counting OTDR)について
光子計数技術(Photon-counting OTDR)は、従来のアナログ検波方式とは異なり、単一光子レベルでの検出を可能とするOTDR測定手法です。米国特許番号7,593,098では、この光子計数技術をOTDRに適用するための測定原理およびシステム構成が体系的に示されています。 本技術の最大の特徴は、後方散乱光を連続的な光パワーとして測定するのではなく、検出された光子一つ一つを時間情報とともにカウントし、統計的に後方散乱分布を再構成する点にあります。各光子検出イベントは、送信パルスからの到達時間に基づいてファイバ内の位置に対応付けられ、十分な積算時間を確保することで、極めて微弱な分布散乱信号であっても高い信号対雑音比(SNR)での測定が可能となります。 この方式により、検出感度は従来型OTDRを大きく上回り、検出限界は単一光子レベルにまで低減されます。また、アナログ受信系における増幅雑音やドリフトの影響を受けにくく、低散乱媒質や高損失条件下においても安定した測定が可能です。 さらに、光子計数型OTDRは位相情報に依存しない非コヒーレント検波方式であるため、被測定媒質中の散乱光のスペクトル広がりや微小な周波数変動の影響を受けにくいという特長を有します。この特性は、空気やガスを含む中空コア光ファイバ(HCF)のような、従来のレイリー後方散乱に基づく測定が困難な構造に対して特に有効です。
一方で、本技術は統計的積算を前提とするため、測定時間が比較的長くなる傾向があり、検出器のデッドタイムや回復特性、計数飽和といった要素を考慮した測定条件の最適化が重要となります。そのため、光子計数技術は、高速測定よりも高感度測定が求められる応用分野に適した手法と位置付けられます。 総じて、米国特許番号7,593,098に基づく光子計数技術は、従来型OTDRでは測定が困難であった極低散乱環境に対して分布型計測を可能とする、基盤的かつ実用性の高い測定技術といえます。
導入効果
光子計数型OTDR(LOR-200)を導入することで、従来型OTDRでは測定が困難であった中空コア光ファイバにおいても、後方散乱分布の取得が可能となり、ファイバ長や損失分布を含む分布型診断が実現されました。


